環境ビジネス情報発信 コラム

環境ビジネス情報発信 コラム Vol.16

さかいIPC環境ビジネス研究会
環境ジャーナリスト 富永 秀一
富永 秀一氏

Vol.16「危機管理の前にリスク管理を (2)」

「万全な対策」などないと心得る

前回に続いてリスク管理について書きます。

「最悪の事態を想定」して対策を考えておいたとしても、その想定すら超える事が起きるかもしれません。

東京電力福島第一原発の場合は、最悪の想定もしていなかったので論外ですが、今停止中の原発の内、16基で始まっているストレステストについても、例え「最悪」と考えられる想定をしたとしても、それを超える事態が起こりうる事を忘れてはいけません。

その意味では、よく使われる、「ストレステストで安全を確認して再稼働を」という表現は嘘くさく感じられます。「安全を確認」する事など不可能だからです。

できる事は「リスクに対する強さの確認」でしょう。どの程度の地震の揺れ、津波の高さ、電源喪失の時間までならメルトダウンに至らないであろうという予想ができるにすぎません。その想定を超える事態はあり得る訳で、ストレステストで「安全を確認」できる訳ではありません。

もちろん、様々なリスクを想定し、メルトダウンを防ぐ対策をしてもらう必要がありますが、いくらやっても、リスクを減らすことはできても、ゼロにはできません。万全な対策などないのです。

それなのに、まるでストレステストを受ければ「安全を確認」できるかのように発言したり、報道したりする事は不正確、不誠実だと言えるでしょう。このような状況では、地元や多くの国民の信頼を得て、再稼働が認められるのは難しいのではないかと思います。

リスクを開示し対策をうながす

大切なのは、リスクを開示した上で、それに対する利益やコストとのバランスをどう取るか、住民や国民に判断してもらう、或いは企業や行政が判断するなら、住民や国民に理解してもらう事でしょう。

例えば、原発で言えば、メルトダウンを防ぐための対策としてどこまでやっているかを開示するのはもちろん、メルトダウンを防げない可能性がある以上、福島第一原発事故レベルの、100京ベクレル程度の放射性物質放出があった場合、季節ごとに、どの程度の時間でどこまで汚染が広がり、住民へのヨウ素剤投与や避難はどのようにして行うのか等のシミュレーションデータも開示する必要があるでしょう。

そして、そのようなリスク、対策と、発電所を稼働させた場合に得られる電力量、コスト削減効果とを比較し、判断を仰ぐ、或いは理解を求めるのです。

現実には、このようなシミュレーションをした上でも稼働させようという結論になるのは、陸地の東の端にあり、2005年運転開始と新しい、東北電力の東通原発1号機だけかもしれません。ここも理解を得られないようなら、おそらく全滅でしょう。

それでも、福島第一原発の事故ですら、本当の最悪の状態よりは手前である事を考えると、この程度のシミュレーションはする必要があると思います。それによって、住民や国民は、適切な判断ができますし、現実に事故が起きた時、どのように行動すればよいか、どんな備えをしておけばよいか、考えておくことができます。

日本最大級の地震のリスク

地震に関して言えば、様々な活断層やプレート境界で予想される地震についてシミュレーションが行われ、地域ごとにどの位の揺れになるか計算され、公表されています。しかし、想定以外の活断層やプレート境界が連動して動く事もありますし、建物の構造や、揺れの周期との関係、地盤の状態などによっては、予想以上の揺れになる可能性がある事を知っておく必要があります。シミュレーションの公表に当たっては、そうした注意喚起もした方が良いでしょう。

東日本大震災以降は、こうした地震の連動や建物や地域による揺れの差についての報道が以前より頻繁にされるようになりました。

しかし、それでも「想定不適当」とされているのではないかと感じる地震があります。

「中央構造線の連動地震」です。

中央構造線は関東から九州まで伸びる、日本最大級の断層で、特に四国付近では衛星写真でもはっきりと分かる、世界的にも第一級と言える断層です。

現在、中央構造線に関しては、幾つかの地域に分割し、その付近だけが動く想定で、マグニチュード7~8程度の地震の予想が行われています。複数の地域、場合によっては300km以上の断層が連動して動く可能性も否定はされていませんが、その場合の地震の規模や被害の想定はされていません。

30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図。濃いほど確率が高い。紀伊半島から九州まで伸びる紫の線が中央構造線。活動間隔が数千年と長いため30年間での発生確率は低い。赤い四角は地震の予想が行われている主な断層帯。(出典 防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」)

もちろん、マグニチュード7.3の阪神・淡路大震災の例を見ても、大都市に近い内陸で起きるマグニチュード7~8という地震は、それだけで十分脅威なのですが、連動するとマグニチュード8の後半、場合によっては9を超えるかもしれません。どれほどの揺れ、被害になるのか想像を絶しますが、だからこそ「想定不適当」にしてはならないと思います。

ここまでの規模になると、まさに「万全な対策」など存在せず、かなりの被害は避けられないでしょう。しかし、まったく想像もしていない所に不意打ちを食らうよりは、想定を知っていれば、知恵を絞って、生存確率を高める努力ができる分、被害を少しでも抑えられるでしょう。

例えば、住宅やマンションの中に、柱を増やしたり壁を補強したりして、例え建物が倒壊しても、空間が残って圧死を防ぐ、シェルター的なスペースを備えておく、といった対応を取る建築、建設会社が出てくるかもしれません。

率直にリスクを開示した岩手県

津波に関しては、「万全な対策はない」として、リスクを開示し、対策をうながす動きが現実となっています。

例えば、岩手県は、東日本大震災で津波による大きな被害を受けましたが、堤防の高さを、今回の津波に耐えられる高さにする事はやめ、100年に1度の津波に耐えられる程度にすると決めました。まれではあっても、津波が堤防を越えてくるリスクがあると開示したことになります。そして津波のおそれがある場合には、とにかく避難する事を呼びかけています。

できる限りの対策が求められるのは確かですが、国、自治体、企業に、リスクに備える無限の予算があるわけではありません。リスクがあまりにも巨大な場合は、完全に被害を押さえ込む万全な対策が取れない可能性がある事を率直に認め、その場合への備えを呼びかける。それで良いのだと思います。あってはならないのは、リスクが巨大だからといって情報を隠すことです。

すべての場面に当てはまるとは限りませんが、皆さんも、対応できない大きなリスクが想定される場合、率直にリスクを開示し、相手方にその場合の対応を考えておいてもらった方が、かえって信頼を得られる事もあるのではないでしょうか。

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