環境ビジネス情報発信 コラム

環境ビジネス情報発信 コラム Vol.10

さかいIPC環境ビジネス研究会
環境ジャーナリスト 富永 秀一
富永 秀一氏

Vol.10「原発事故と企業イメージ」

トラブル発生時、企業はどうすれば良いか

今回は、3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、企業に対するイメージがどう変わっていったか、そして、今後どのようなメッセージを出していけば良いのか考えてみたいと思います。

まず、企業イメージが最も悪化した企業は、当事者である東京電力でしょう。原発で大規模事故を起こした事はもちろんですが、その後の対応のまずさが、イメージ悪化に拍車をかけました。

企業がトラブルを起こしたり、巻き込まれても、その後の対応によっては、イメージ悪化を最低限にとどめたり、逆にイメージアップにつなげる事も可能です。

その際大切な事は、「誠実さ」です。

トラブルの原因の徹底究明や、情報公開を行い、トップが前面に出て心からのメッセージを発する事。そして、対処法が分かった後は、周囲が「そこまでしなくても」と感じる程に対策を行い、被害者がいる場合は、速やかに手厚い補償をすることです。

例えば、旧式の石油温風機が原因で死亡事故が起きた際の松下電器(現・パナソニック)や、暴走事故に関連して、大規模なリコールをした際のトヨタの対応は、記憶に新しいと思います。

両社の企業イメージは、一時的に大きなダメージを受けましたが、速やかに回復。企業に対する環境イメージの最新のランキングで、トヨタは世界一、パナソニックは10位(日本企業では3位)となっています。

正反対だった東京電力の対応

今回の原発事故後の東京電力は「誠実」とは対局の対応をしました。

私は、事故後しばらくの間、記者会見の生中継をほとんど見ていましたが、被害をできるだけ小さく見せ、分かっているはずの情報を言わず、トップがずっと顔を出しませんでした。そして、やるべき事が分かってもなかなかやらず、被害者への補償も遅く、小規模です。

例えば、炉心に大量の海水を入れても水位が上がらない時、東京電力は「計器の故障」と言っていました。私は、3月13日の時点で、Twitterを通じて、「配管の破断などで海水が漏れているから」ではないかと指摘していましたが、東京電力は、「計器の故障」が通用しなくなると、「原因はわからない」と言い続け、「どこかで格納容器に水が漏れている可能性がある」と初めて認めたのは、3月15日の午前4時の会見でした。

配管の損傷を認めると、地震の影響の可能性が出て、すべては津波のせいだと言えなくなるからかもしれませんが、不都合な情報はできるだけ隠そうとする姿勢が見られました。

メルトダウン(炉心溶融)についても当初からその可能性が指摘されていたにもかかわらず、2カ月も認めませんでした。

また、トップの対応もひどく、当時の清水社長は、3月13日夜の会見に出た後、1カ月も公に姿を現しませんでした。

さらに、地下水や海洋への汚染拡大を防ぐため、地下に遮蔽壁を建設する事が有効だと5月の段階から分かっていても、費用がかさむためか、なかなか取りかからず、7月16日にようやく設計に着手しました。

被害者への補償の不十分さ、遅さも報道されている通りです。

すべて、企業イメージを守るためにやるべき事とは正反対です。

東京電力のイメージ悪化になる行動については、枚挙にいとまがありませんので、この位にしておきます。

イメージを悪化させた他の企業

その他、原発に関連して企業イメージを悪化させたのは、やはり電力会社、なかでも、「やらせメール問題」が発覚した九州電力でしょうか。

佐賀県にある玄海原発の運転再開に向けての県民説明会の際、再稼働に前向きな内容のメッセージを送るよう、関連会社等に指示していたのですが、その行為だけでなく、その後も、当初否定しながら、徐々にばれていくという、最悪の対応をしてしまいました。

また、原発推進を明確に言っている企業に対するイメージは、やはり悪化しています。

各種世論調査で、原発廃止や削減を支持する意見が7割を超えているのですから当然で、原発推進の発言をする度、ネット上では、批判の嵐が吹き荒れています。

イメージアップした企業

逆に原発に関連してイメージアップした企業もあります。その筆頭は、企業と言うより、経営者としてですが、ソフトバンクの孫正義社長でしょう。

4月3日のネット番組で、「東日本大震災の被災者支援のため、個人として100億円、また引退するまでの役員報酬をすべて寄付する」と表明、さらに、「私はこの事故の前までは、原子力は仕方ないと考えていた。でも今回の事故で思い知らされた。心から反省している。コストも決して安くない。人命を危険にさらしてまでやる物ではない。」と明確に脱原発の考えを表明し、多くの人の共感を得ました。

そして、一企業の呼びかけにもかかわらず、太陽光、風力、地熱発電など、再生可能エネルギーの普及を目指す、「自然エネルギー協議会」には、35道府県、17政令市がそれぞれ参加しています。

また、前面に出て意見を表明する事が少ない金融機関でありながら、4月8日に「原発に頼らない安全な社会へ」というメッセージを出し、脱原発の立場を明らかにした城南信用金庫に対しても、賞賛の声が上がりました。

同信金は省エネのために設備投資をした人の預金金利を優遇したり、省エネ機器の購入資金を低金利で融資するといったサービスも展開しています。

これらの企業や経営者の行動が共感を呼んでいるのは、電力関係、原子力関係の顧客が離れていくリスクを承知で、「今言うべき」と信じるメッセージを発信し、しかも行動が伴っているからです。

どんなメッセージを出せばよいのか

しかし、そうは言っても、電力が不足したり、電気代が上がると困るという企業も多いでしょう。また、電力会社が原発から火力発電に切り替えていくと、CO2排出係数が悪化しますから、CO2排出量削減の目標達成が難しくなる企業も出てくるでしょう。

だからと言って「原発を推進すべきだ」などと言っては、企業イメージが悪化します。では、そんな企業は、どのようなメッセージを出せば良いのでしょうか。

例えば、「不合理な節電要請をしないで欲しい。」というメッセージはいかがでしょう。

政府の試算では、次の冬は最も電力消費量が増えるピークの時間でも、不足する電力は西日本でわずか0.4%。全原発が停止した場合でも、来年の夏は最悪のケースで8.3%不足するだけです。

ですから、長期間、長時間、一律の過大な節電要請をしないよう、政府や電力会社に訴えるのであれば、世論の反発を招かないでしょう。

また、「電気代を上げないで欲しい。」という訴えも、「不要になる原発推進の為の予算を、再生可能エネルギーの普及に回して欲しい。」という意見を添えれば、利己的な要求と取られるリスクは減ります。

今の再生可能エネルギー普及法案では、買い取り費用を電気料金に加算する制度になっています。そこで、買い取り費用の全部、または一部を、数千億円にのぼる原発推進予算の削減分を使って補填できるよう、法改正するか、追加で法律を作るよう、政府や国会に求めるのです。

再生可能エネルギーの普及が進んでいけば、それを買い取る電力会社のCO2排出係数も改善していきます。

このような表現でメッセージを発信すれば、世論の反発を招かず、むしろ賛同を得ながら、言うべき事が言えると思います。

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