環境ビジネス情報発信 コラム Vol.5

- 環境ジャーナリスト 富永 秀一
Vol.5「省エネ(1)空調対策」
究極は地下工場
環境経営には"守り"と"攻め"の両面がありますが、"守り"である環境対策の中でも最大の要素は省エネであるという会社は多いでしょう。
省エネにも色々ありますが、今回は空調対策について取り上げます。
空調への負荷を大きく左右するのが建物の省エネ性能です。オフィスビルでも、一般的な工場でも、壁に断熱材を入れたり、窓にペアガラスを使用するなどして、建物の断熱性能を高めれば、外気温の影響を受けにくくなり、冷暖房の負荷を減らせます。
工作機械大手、ヤマザキマザック(株)のグループ会社、ヤマザキマザックオプトニクス(株)の研究所が地下12mに作られているのは、その究極の形かもしれません。
外気を取り入れる時に、年中16度で安定している地中熱を利用する事で、夏は28度、冬は18度に保ちながら、地上に同規模の工場を造った場合より9割も空調エネルギーを削減しているそうです。
当然、窓が多い地上の工場より照明エネルギーは必要になりますが、通常、照明より空調の方が必要とするエネルギーが遙かに多いので、トータルでは省エネになるわけです。
ここまでではなくても、屋上緑化や壁面緑化も、建物の断熱性を高めますから、冷暖房の負荷を減らす効果が見込めます。
日射を制御する
また、夏の日射を防ぐ事も重要です。
建物を新築、改築する際には、夏の高い位置からの日射は防ぎ、冬の低い位置からの日射は取り入れる角度にひさしを出すよう設計すると効果的です。一般的に、窓の下の所から見上げて、60度の角度までひさしがあると丁度良いでしょう。
既設の建物の場合、後付けできるアルミ製のひさしが販売されていますし、オーニングを取り付ける方法もあります。
簡易型のオーニングなら1万円位からありますから、幾つかの部屋に設置して、室温や空調機器の消費電力量を測定し、費用対効果を計算して、日射を遮る効果が大きいようであれば、本格的に導入してみてはいかがでしょうか。

図1 窓の外で日射を遮る方が遮熱効果は大きい
日射を遮るのであれば、カーテンやブラインドでも同じ、と思われるかもしれません。しかし、これらの場合、日差しで熱くなった空気が室内に向かうのに対し、ひさし、オーニングをはじめ、よしず、すだれなど、外に設置するものなら、温められた空気が大気に逃げていくため、遮熱効果がより大きいのです。
可能な場所であれば、ツル性植物などを育てて日陰を作る、「緑のカーテン」も効果的です。植物は水分を出すため、水が蒸発する時に周囲の熱を奪う、蒸発冷却効果もあり、コンクリートなどの陰より涼しく感じる事ができます。
塗料で対策
屋上や壁面の塗料でも対策が可能です。
遮熱塗料を塗るケースは良く聞きます。夏の日差しを反射し、建物内の温度を上がりにくくするというものです。ある工場では、遮熱塗料を施工後、夏の室内温度が3度下がり、空調用消費電力量が16%下がったそうです。
ただし、汚れると効果が落ちてきたり、熱が欲しい冬でも遮熱してしまうといった問題もあるようです。
昨年この環境ビジネス研究会で事例発表していただいた、アルバー工業(株)の熱交換塗料は、熱を運動エネルギーに転換するというもので、熱を防ぐ効果が大きく、しかも色があまり関係ないので汚れの影響を受けにくく、25度以下では普通の塗料と同じになり、冬まで熱を遮る心配がないという事でした。
実際、会で行われた、同じ熱を与えて比較した実験でも、普通の塗料はかなり熱く、遮熱塗料でも熱くなったのに、熱交換塗料はあまり熱くならない事を体感できました。
「設定温度」で決めない
よく、空調の「設定温度」を、夏は28度、冬は18度~20度と決めている所がありますが、これはあまりお勧めできません。なぜなら、しばしば、設定温度通りにならない場所が出てくるからです。
特に断熱性が低い建物の窓際は、夏は暑く冬は寒い、過酷な環境になりがちで、従業員の仕事の能率も落ちてしまうかもしれません。実際、「エコのためだと思って我慢している」という声も聞きます。
そこで私は、実際の「室温」で管理することを勧めています。
それも、できれば複数の場所に室温計を置いて、それぞれの場所の温度ができるだけ同じになるように、空調の位置や風向を調節し、さらには、扇風機やサーキュレーターを使って空気を循環させると良いと思います。
それまで厳格に設定温度を管理していた場合は、こうした対策によってかえって消費エネルギーが増えてしまうかもしれません。しかし、ある程度、職場の快適性を保たなければ、「エコ=我慢」というイメージになってしまい、環境活動全般に対する従業員のモチベーションを高く保ち、長続きさせる事が難しくなってしまうのではないかと思います。
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