トーシンケミテックが製造するさまざまなゴムや樹脂の成型品は、炊飯器などの調理家電のゴムパッキンや、冷蔵庫、エアコンの防振ゴム、そして空気清浄機のフィルターなど、直接私たちの目に触れることは少ないものの、身近で役立っているものが大半です。これらが「縁の下の力持ち」的存在感を発揮していることは、佐藤社長の言葉からも強く印象づけられました。
「当社のゴム製品は、得意先企業の製品製造原価の３％に満たないものがほとんどです。100％受注生産で、いかに指定納期を守るか、柔軟な対応が求められますが、不当な価格競争や理不尽な要求を押し付けられることもありません。お約束した「QCD」（品質・コスト・納品）は必ず守る代わりに、できない条件は信念を持ってお断りするのが当社の営業方針です」。
同社のその強さが何なのかと問えば、60年近くゴムや樹脂を扱ってきたなかで培った独自のノウハウでした。わかりやすい例えで言えば、輪ゴムとタイヤ、伸縮性も耐久性も全く違うのに原材料は同じ。薬品などの配合一つで、これだけ性質の異なるものになります。実際には、十数種類以上の薬品を配合してゴムに練り込み、求められる品質特性を持つ製品を作り出しているのだとか。実際に製品化されるまでには、硬さや伸縮性のほか、耐摩耗性、耐油性、耐熱性、復元力など数々のテスト項目があり、それらを求められている基準でクリアするまで何度も試作品を作り、何度もテストを重ねています。そうして認定された新しい配合のスペックがそのまま、同社のノウハウになるというわけです。
得意先には、ゴム素材そのものの品質チェックができないため、同社への高い信頼のもと、取引が成立しているということですが、万一配合ミスがあった場合には、巨額な補償が生じるとあって、品質管理体制を最も重視していると佐藤社長は語っています。

同社の企業理念は、確実に日々の経営に生かされています。例えば、「あらゆるニーズにお応えできる」よう、早くも19年前にはタイに進出し、現地の日本企業のものづくりを支えてきました。また、材料メーカーと共同開発したLIM成形は、食品関係や医療用に最適なシリコンゴムの精密成形品に対して、高品質を守りながら優れたコストパフォーマンスを発揮しています。一方で高効率な生産を求め、高速インジェクション成形機を導入。それもこれも、佐藤社長のいう品質責任と供給責任を確実に果たすことを使命としているからです。
「うちで働いて良かったと思ってもらえること、それが何よりです」という佐藤社長。創業以来のヒューマンライクな発想が同社の成長につながってきたことを確信しました。
そこにこめられた思いや背景は三社三様ですが、企業理念は「北極星」のように、会社の進むべき方向を高く指し示すものなのだと実感しました。北極星は、誰もがどこからでも見ることができます。そこに向けきちんと舵取りできていることが、社内外から大きな信頼を獲得できるのでしょう。経営理念と実際の経営がずれていないか、今一度、見つめ直してみてはいかがでしょうか。

▲わずか数ミリの点滴に使われる輸液セットのバルブやゴムパッキンなどに高い技術が生きている。